標準原価計算とは?
標準原価計算とは、標準原価に基づいて製品の原価を計算し、実際の原価との差額を分析する方法です。標準原価計算を用いることで、企業は予算や目標を立てやすくなり、またコストの管理もしやすくなります。
標準原価とは
標準原価とは、製品を製造する際の目標とすべき原価を指します。 実際原価とは異なり、材料の標準使用量や標準単価、従業員の標準作業時間や標準時給などを元に算定されます。
標準原価は、原価標準の金額に生産データを乗じることで求められます。
原価標準とは、製品1個あたりの目標とする原価のことをいいます。
- 標準原価=原価標準×生産データ
例えば、原価標準の合計額が100円で当月の生産数10個の場合、標準原価は1,000円となります。
- 標準原価 1,000円= 原価標準の合計100円 × 当月生産数10個
原価標準と標準原価の違いについてより詳しく学びたい方は、下記の記事をご覧ください。
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標準原価計算は簿記2級の工業簿記で出題されますが、苦手な方が多い論点です。しかし、計算方法をしっかり理解すれば、本番で満点を取ることも可能です。
この記事では、標準原価計算の目的や一連の流れ、実際原価計算との違いについて図解を用いてわかりやすく解説します。
目次
- 標準原価計算とは?
- 標準原価とは
- 高校生でも理解できる標準原価計算の事例
- 標準原価計算の目的
- 標準原価計算と実際原価計算の相違点は?
- 実際原価計算とは
- 標準原価計算の特徴
- 標準原価計算と実際原価計算の違い
- 標準原価計算の一連の流れとは?
- ステップ1.原価標準の設定
- ステップ2.標準原価の計算
- ステップ3.実際原価の計算
- ステップ4.標準原価差異の計算
- ステップ5.標準原価差異の分析
- ステップ6.報告と改善
- 標準原価計算のまとめ
- 問題をたくさん解いて標準原価計算を身につけよう
なお、原価計算を基礎からしっかり学びたい方は、まずは先に下記のトレーニングから始めてみてください。
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また、工業簿記の試験内容や学習方法については、下記の記事で詳しく解説しています。
工業簿記に苦手意識を持つ方は、ぜひこの記事とあわせてご覧ください。
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高校生でも理解できる標準原価計算の事例
標準原価計算について、なかなかイメージを持ちにくい方もいらっしゃるかと思います。
そこで、まずはTシャツ屋さんの事例を通じて、標準原価計算の大枠を説明します。
標準原価計算を取り入れているTシャツ屋さんでは、1枚のTシャツを作るためにどれくらいの費用がかかるかを事前に計算しています。
Tシャツを作るためには、綿(材料)や労働者の給料(労働費)、電気代などの製造間接費が必要です。
そこで、Tシャツ屋さんは、1枚のTシャツにかかる原価の目標を次のように設定しました。
- 材料費(綿):300円
- 労働費:1,000円
- 間接費:200円
この場合、Tシャツを1枚作るために必要な原価の目標は1,500円(300円+1,000円+200円)となります。
ところが、実際にTシャツを作ってみると、当初の目標数値(1500円)よりも高い原価(1,600円)が発生することが頻繁に起こります。
この場合、目標値と実際原価の差を計算し、なぜ、原価の金額にズレが生じたのかを分析し、改善策を立てることが大切です。
このように標準原価計算を使うことで、Tシャツ屋さんはコスト管理ができるだけでなく、効率的な運営を目指すことができます。
標準原価計算の目的
標準原価計算の目的は、事業の予算策定を助けること、コスト管理を行い利益を最大化すること、そして業務を効率化し無駄を削減することです。これらの目的を達成することで、企業は競争力を向上させ、事業の成功につなげることができます。
- 予算策定
- コスト管理
- 業務効率化
それぞれ詳しく解説します。
予算策定
企業は事業を進める上で、どれくらいのコストがかかるのか予測して予算を立てる必要があります。標準原価計算を用いることで、あらかじめコストを見積もりやすくなり、予算策定がスムーズに行えることができます。
コスト管理
企業はコストを適切に管理することで、利益を最大化することができます。標準原価計算を使って設定された目標のコストと実際のコストを比較し、原価差異の原因を分析することで、適切なコスト管理を行うことが可能となります。
業務効率化
標準原価計算によって、企業はどの部分でコストがかかっているのか、どこに無駄があるのかを把握することができます。目標のコストと実際に発生したコストの差を分析することで、無駄なコストを削減し、業務を効率化することができます。また、作業プロセスや生産性の向上につながる改善策を見つけることも可能になります。
標準原価計算と実際原価計算の相違点は?
標準原価計算と間違えやすい用語に「実際原価計算」というものがあります。
- 実際原価計算
ここからは、標準原価計算と実際原価計算の違いについて解説していきます。
なお、原価計算の種類については、下記の記事で詳しく解説しています。
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実際原価計算とは
実際原価計算とは、実際に発生したコストをもとに製品の原価を計算する方法です。これにより、企業は実際に発生している原価がいくらなのかを把握することができます。
実際原価計算では、以下の要素を用いて計算します。
- 実際消費量:製品やサービス1つあたりに実際に使用された材料や労務の量
- 実際単価:実際に発生した材料や労務の1単位あたりのコスト
標準原価計算の特徴
標準原価計算は、あらかじめ設定された基準(標準)に基づいて製品やサービスの原価を計算する方法です。これにより、企業は予算策定やコスト管理を行いやすくなります。
標準原価計算では、以下の要素を設定します。
- 標準単価:材料や労務にかかる1単位あたりのコスト
- 標準消費量:製品やサービス1つあたりに必要な材料や労務の量
標準原価計算と実際原価計算の違い
標準原価計算は、原価が発生する前に標準原価に基づいて製品の原価を計算する方法です。一方で、実際原価計算は、実際に発生した原価をもとに製品の原価を計算する方法です。
実際原価計算を用いることで、正確な原価を計算することができますが、原価の発生後でないと製品の原価を把握することができません。また、原価発生後に原価の集計をする場合、手間と時間がかかってしまいます。
そこで、あらかじめ目標値を立てておく標準原価計算を用いることで、素早く原価を把握することができます。また、実際原価と標準原価の差である原価差異を分析することで、改善策の立案や業務効率化につなげることができます。
標準原価計算の一連の流れとは?
それでは、具体的な標準原価計算の流れを見ていきましょう。標準原価計算の手順は全部で6つです。
- 原価標準の設定
- 標準原価の計算
- 実際原価の計算
- 標準原価差異の計算
- 標準原価差異の分析
- 報告と改善
今回はTシャツ屋さんを事例に、1つずつ手順を踏んで紹介します。
ステップ1.原価標準の設定
はじめに、原価標準を設定します。
原価標準の設定とは、製品1つを作るのに必要な材料費、労働費、間接費を予測し、標準として設定する作業です。これによって、製品の原価を計算する基準ができます。
例えば、1枚のTシャツを作るために必要な原価標準が、材料費300円、労務費1,000円、製造間接費200円だとします。
- 材料費(綿100g):300円
- 労働費(作業時間1時間):1,000円
- 製造間接費(電気代など):200円
上記のデータに基づくと、Tシャツを1枚につき1,500円という目標が設定されました。これが原価標準です。
原価標準の設定についてより詳しく学びたい方は、下記の記事がおすすめです。
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ステップ2.標準原価の計算
設定した原価標準を元に、製品の標準原価を計算します。
Tシャツ1枚の原価標準は1,500円でした。この原価標準に基づき、10枚のTシャツを製造する場合、15,000円発生します。これが製品の標準原価となります。
- 材料費:3,000円
- 労働費:10,000円
- 製造間接費:2,000円
ステップ3.実際原価の計算
次に、製品を実際に作る際にかかった費用(実際原価)を計算します。
先ほど求めた標準原価はあくまで目標です。例えば、実際に10枚のTシャツを作ったとき、下記のような結果になったとします。
- 材料費:3,400円
- 労働費:9,800円
- 製造間接費:2,000円
Tシャツを実際に10枚作るにあたって15,200円の原価が発生しました。これが実際原価です。
ステップ4.標準原価差異の計算
標準原価と実際原価を求めたら、両者の差異を計算します。これにより、計画通りに製品が作られたのか、それとも予想外の費用がかかったのかを把握することができます。
今回のTシャツ屋さんでは、標準原価が15,000円、実際原価が15,200円でした。
- 標準原価:15,000円
- 実際原価:15,200円
- 標準原価差異:200円(不利差異)
上記のデータを見ると、目標(標準原価)は15,000円に設定していたものの、実際原価は15,200円かかってしまったことが分かります。 したがって、200円だけ目標値を上回ってしまっています。
※不利差異とは、予定よりも費用がかかった状態(標準原価<実際原価)のことを言います。逆に、予定の原価よりも費用を抑えることができた状態(標準原価>実際原価)を有利差異と言います。
ステップ5.標準原価差異の分析
標準原価と実際原価の差異を、直接材料費差異、直接労務費差異、製造間接費差異に分けて分析します。これにより、どの部分で費用がかかりすぎたのか、または節約できたのかを明確に把握することができます。
今回のTシャツ屋さんの事例では、200円の不利差異が発生しています。何が原因で差が発生したのかを特定するため、200円の不利差異を直接材料費差異、直接労務費差異、製造間接費差異に分けて分析します。
直接材料費
直接材料費は400円だけ、目標値を上回りました。
- 標準原価:3,000円
- 実際原価:3,400円
- 原価差異:400円(不利差異)
直接材料費差異の詳しい計算方法については、下記の記事で詳しく解説しています。
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直接材料費差異をわかりやすく解説!簿記の標準原価計算を理解しよう
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直接労務費
一方、直接労務費は200円、目標値を下回っています。
- 標準原価:10,000円
- 実際原価:9,800円
- 原価差異:200円(有利差異)
直接労務費差異の詳しい計算方法については、下記の記事で詳しく解説しています。
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製造間接費
製造間接費に関しては、目標と同様の結果となりました。
- 標準原価:2,000円
- 実際原価:2,000円
- 原価差異:0円(差異無し)
製造間接費差異の詳しい計算方法については、下記の記事で詳しく解説しています。
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製造間接費差異の計算方法を図解を用いてわかりやすく解説!
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結果、材料費が400円の不利差異、労務費が200円の有利差異であることが判明しました。合計すると、200円の不利差異であり、計算ミスがないことが分かります。
ステップ6.報告と改善
最後に、原価差異の分析結果を報告し、必要であれば改善策を立案します。例えば、材料費がかかりすぎている場合は、より安価な材料を使ったり、無駄を減らしたりすることでコストの改善につながります。
Tシャツ屋さんの事例では、直接材料費が400円の不利差異、直接労務費が200円の有利差異として発生しています。
材料費は400円の不利差異が発生し、目標値を超えてしまいました。改善策として、材料費は安価な仕入先を探すか、綿の使用量を減らす方法を検討する必要があります。
一方、労務費は200円の有利差異が発生し、目標値を下回りました。現場の従業員の技術が向上し、目標よりも短い時間でTシャツを製造することができたと判明しています。従業員の成績に反映すると共に、次期の原価標準の設定時にはより高い目標を用意するか検討する必要があります。
標準原価計算のまとめ
この記事では、「初心者でもわかる標準原価計算」をテーマに、簿記受験生向けに標準原価計算の基本概念から具体的な計算方法までをわかりやすく解説しました。標準原価の設定、計算、実際原価の計算、差異分析といった一連の流れを学ぶことで、コスト管理や生産効率向上に繋げる知識が身につきます。
工業簿記では頻出の論点であるため、しっかり理解しておきましょう!
問題をたくさん解いて標準原価計算を身につけよう
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