価格戦略とは?
価格戦略とは、商品やサービスに対する消費者の支払い意欲と、ビジネスの利益の両方を最大化するための戦略です。価格設定は売上や利益、ブランドイメージなどに大きな影響を与えるため、ビジネスの成功には非常に重要な役割を果たします。
価格戦略は「プライシング戦略」と呼ばれることもあります。
プライシングとは、商品やサービスの価値を見極め、価値を価格に転嫁するプロセスのことを意味します。
この記事では、価格戦略の中でも特に重要となる「価格設定」をテーマに、実際の成功事例を用いて詳しく解説します。
テーマ企業の紹介
皆さんに質問です。東京ディズニーランドを運営している上場企業、「オリエンタルランド」の名前を聞いたことがありますか?
今回は、このオリエンタルランドという企業について少し詳しく説明します。
オリエンタルランドは、新型コロナウイルスの影響を深刻に受けた企業の1つです。
観光業界全体が大打撃を受ける中、特に東京ディズニーランドのような大型テーマパークは、人々の移動制限や社会的距離の確保のために営業を自粛せざるを得ませんでした。
実際に、2021年3月期の決算を見てみると、売上高は半分以下にまで落ち込んでいます。
これは、一年を通じて閉鎖または制限された営業を強いられた結果と言えるでしょう。
ここでクイズです。コロナウイルスの感染拡大が収束し始め、社会活動が徐々に回復した2023年3月期のオリエンタルランドの経営成績はどれでしょうか?
タップで回答を見ることができます
選択肢①
選択肢②
選択肢③
新卒くん
え?普通に考えて選択肢①では?
まだまだ赤字のイメージです。
学生くん
黒字化に成功した!というニュースを見た記憶もあります。
選択肢②じゃないかな?
わかりましたか?
正解は選択肢③です。
コロナウイルスの影響を最も受けた企業であるオリエンタルランドですが、2023年3月期決算において、既にコロナ前の水準にまで回復していることが読み取れます。
新卒くん
え?全然イメージと違いました。
一体なにがあったんでしょうか…?
今回は、このオリエンタルランドの事例を元に、「価格戦略」の重要性についてを解説します。
この記事が読み終わる頃には、「価格」に対する意識が大きく変化しているはずです。
簿記試験の受験生はもちろん、マネージャーやマーケター、投資家の方が使いこなせなければならない会計・簿記の知識として「価格戦略」を解説します。
目次
- 価格戦略とは?
- テーマ企業の紹介
- 価格設定の基本
- ディズニーランドの儲けの仕組みは?
- 収益モデル
- コロナによる影響
- コロナ禍の入園者数
- コロナ後の業績
- オリエンタルランドの価格戦略は?
- 変動価格制の導入
- 付加価値の提供
- 財務数値から読み取る値上げの影響
- 価格戦略のケースのまとめ
- オリエンタルランドの今後
- 類似事例を学びたい方
- 実際に手を動かしてみよう
価格設定の基本
価格設定の基本として、代表的な2種類の方法があります。
価値ベースの値付け方法である「マーケットイン方式」と、コストベースの値付けである「マークアップ方式」です。
マーケットイン方式
マーケットイン方式は、価格設定において市場の需要や競合他社の価格、顧客の価値認識などを重視する方法です。
具体的には、顧客が商品やサービスにどれくらいの価値を感じ、それに対してどれくらいの価格を支払う意欲があるかを調査・分析し、その結果に基づいて価格を設定します。
マークアップ方式
マークアップ方式は、商品やサービスのコストに利益分を上乗せして価格を設定する方法です。
具体的には、製造コストや運営コストに対して一定の利益率(マークアップ)を追加し、それを価格とします。
今回の事例では、「マーケットイン方式」をベースに解説します。
ディズニーランドの儲けの仕組みは?
ここからは、オリエンタルランドの事例を元に、どのように業績を回復させたのかを順を追って解説します。
まずは、オリエンタルランドが運営するディズニーランドの収益モデルを整理していきましょう。
収益モデル
収益モデルとは、収益がどのような変数で構成されているかを構造化することです。
通常は、単価×数量となります。
収益モデルについて詳しく学びたい方はこちら
ディズニーランドのようなテーマパークビジネスの収益モデルはシンプルです。
入園者数と顧客単価が売上高を構成しています。
- 売上高=入園者数×顧客単価
この収益モデルをさらに分解すると下記のようになります。
- 入園者数=新規顧客+既存顧客
- 顧客単価=チケット収入+商品販売収入+飲食販売収入
このように、収益モデルを作成することで、売上高がどのような要素で構成されているかを把握することが可能となります。
新卒くん
単価と数量に分解するだけかと思っていました。
さらに深堀りできるんですね!
コロナによる影響
それでは、上記の収益モデルを元に、コロナによる影響を見ていきましょう。
上述した通り、オリエンタルランドはコロナの影響を大きく受け、2021年3月期決算の売上高は半分以下となってしまいました。
売上高が大きく減少してしまった背景には、入園者数の減少があります。
- 2020年3月期:2,901万人
- 2021年3月期:756万人
- 増減:-2,145万人
たった1年間で2,145万人もの入園者が減少してしまいました。
その結果、2021年3月期の決算では、多額の営業損失を計上しています。
新卒くん
なんとなく知っていましたが…
このように数字で見ると凄まじい打撃ですね…
コロナ禍の入園者数
ここからは、コロナ禍における入園者数の推移を確認していきます。
一時は70%近くまで落ちてしまった入園者数ですが、徐々に回復傾向にあります。
コロナの規制が解除された2023年3月期決算においては、コロナ前の入園者数の2分の3の数値にまで回復しています。
オリエンタルランドの中期経営計画によると、入園者数を急激に増やさず、入園者の上限を設けているようです。
上限を設ける意図としては、感染対策はもちろん、コロナ禍においても満足度を高水準で維持することが狙いです。
従って、段階的に入園者数が増加していく数値の動きとなっています。
学生くん
なるほど。
入園者数はまだまだ元の水準に回復していないようですね。
コロナ後の業績
入園者数はまだまだコロナ前の水準まで回復していないオリエンタルランドですが、主要な財務指標は既にコロナ前の水準まで回復していることがわかります。
- コロナ前(2020年3月):4,645億円
- コロナ後(2023年3月):4,831億円
売上高のみならず、売上総利益に関してもコロナ前と遜色ない数字となっています。
- コロナ前(2020年3月):1,638億円
- コロナ後(2023年3月):1,862億円
さらに、キャッシュの創出能力を意味する「営業活動に関するキャッシュ・フロー」に関しては、なんと過去最高水準を記録しています。
- コロナ前(2020年3月):733億円
- コロナ後(2023年3月):1,677億円
新卒くん
ええっ!?
入園者はまだ回復していませんよね?
それなのに、売上や利益は元の水準に回復しているのですか!
オリエンタルランドの価格戦略は?
オリエンタルランドの業績回復の裏には、顧客単価の上昇が存在します。
コロナ前と比較すると、1人あたりの売上高は1.5倍に上昇していることがわかります。
- コロナ前(2020年3月):11,606円
- コロナ後(2023年3月):15,748円
顧客単価の内訳を確認すると、チケット収入が2,500円増加しています。
新卒くん
ディズニーランドの値上げは、ニュースで度々流れてきますね!
しかし、2,500円も増加しているとは驚きですね。
学生くん
100円値上げするのも難しい世の中ですが、よく2,500円も値上げすることができましたね…
それでは、どのような背景からチケット収入が増加しているのかを解説します。
チケット収入増加の背景には、下記の2つの戦略が大きく貢献しています。
- 変動価格制の導入
- 付加価値の提供
変動価格制の導入
変動価格制とは、市場の需給状況や時間、顧客の購買行動などに応じて価格を柔軟に変化させる価格設定法です。
例えば、需要が高い時間帯や季節には価格を上げ、需要が低い時間帯や季節には価格を下げるといった方法があります。これにより、需要と供給のバランスを取りながら最大限の利益を追求することが可能になります。
オリエンタルランドのケースでは、高価格帯の構成比が増加したことが要因となり、チケット収入の増加に大きく貢献しています。
付加価値の提供
チケット収入増加の、もう1つの要因として「ディズニー・プレミアアクセス」という新サービスがあります。
ディズニー・プレミアアクセスは2022年5月19日から東京ディズニーリゾートにて導入されている時間指定予約サービスです。
1日をより、効率的・計画的に過ごすことが可能となり、新たな付加価値を提供しています。
出典:東京ディズニーリゾート公式HPより
新卒くん
確かに、せっかくディズニーランドに行くなら、効率的に過ごしたいですね。
お金を払ってでも時間を購入したいというニーズは大きそうです!
学生くん
ディズニー・プレミアアクセスの料金が、ちょうど2,000円前後なんですね!
つまりチケット収入の増加にそのまま貢献してそう!
この2つの価格戦略の背景には、市場や顧客の価値認識によって価格を設定する「マーケットイン方式」による値付けがあります。
このように、オリエンタルランドでは、新たな付加価値を創出することで、顧客単価の増加に成功しています。
財務数値から読み取る値上げの影響
顧客単価の増加は、財務数値にどのような影響を与えているのかを確認します。
まずは、コロナ前後のテーマパーク事業の売上高の比較です。
- コロナ前(2020年3月):3,840億円
- コロナ後(2023年3月):3,960億円
売上高のみを比較すると、コロナ前の水準にまで回復していることが読み取れます。
しかし、売上高の構成はコロナ前後で大きく異なります。
入園者数は、コロナ前の水準の60%程度であるため、まだまだ回復半ばに思えます。
一方で、1人当たり売上高に関しては、コロナ前の水準の1.5倍にまで増加しています。
新卒くん
売上高だけを見ると、「元に戻った!」と思ってしまいますが、
内訳を見ると、まだまだ回復の途中なんですね!
学生くん
顧客単価を高めると、来園者数は60%程度でも、同じ水準の売上高まで引き上げることができるのか…
価格戦略のケースのまとめ
以上が、価格戦略を活用したオリエンタルランドの復活事例でした。
コロナ禍の3つの期間の損益計算書を並べてもわかるように、急激に収益性が高まっていることがわかります。
新卒くん
チケット収入は価格が上がっても、変動費や固定費は増加しませんからね。
値上げの分が全額利益に直結すると考えると、収益性は急増しますね。
学生くん
値上げが難しい世の中で、これを実行して結果に繋げるオリエンタルランド…
本当に強い会社ですね。
このように、値上げの強さについて、オリエンタルランドの事例を通じて理解して頂けたかと思います。
注意が必要な点として、「理由無き値上げ」ではなく、「顧客価値を創出した上での値上げ」という点です。
顧客によって、ディズニーランドの価値は異なるため、その視点を組みこみ、価格に転嫁させた見事な成功事例となっています。
オリエンタルランドの今後
売上高や利益に関しては、コロナ前の水準まで回復しています。
しかし、入園者数の水準はまだまだ道半ばです。コロナ前の水準まででも、約1,000万人近くの余力が残っています。
現在の顧客単価で、さらに入園者数を増やすことができるのであれば、オリエンタルランドの業績はまだまだ拡大を期待することができるかもしれません。
類似事例を学びたい方
以上、今回はオリエンタルランドのケーススタディでした。
ここまでお付き合い頂きありがとうございます。
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