直接原価計算とは?
直接原価計算とは、原価計算の方法の1つで、コストを変動費と固定費に分けて集計する手法です。これにより、生産量や販売量とコストの関係を把握し、どの程度のコストが発生するかを理解することができます。
しかし、企業が公開している損益計算書は、通常は全部原価計算に基づいて作成されています。全部原価計算とは、変動費と固定費を区別せず、製造にかかった費用を売上原価に集計し、その他の営業費用を販売費や一般管理費(以下販管費)に集計する方法です。
具体的なイメージを持ってもらうために、簡単な経営ケーススタディを見てみましょう。
あなたの友人が化粧品のECサイトを運営しています。損益計算書を確認すると、50万円の赤字が出ており、状況は厳しいようです。
そんな折、化粧品のファンであるインフルエンサーから連絡がありました。
インフルエンサー
商品のファンです。
無料で宣伝して販売促進に協力します!
インフルエンサーは「無料で販売促進に協力してくれる」と言っています。
この状況で、あなたはどのように判断すべきでしょうか?
お願いすべきでしょうか?それとも断るべきでしょうか?
この問題を解決するためには、直接原価計算を活用して、販売促進活動が利益にどのように影響するかを詳しく調べる必要があります。
最初は全くわからなくても問題ありません。この記事が読み終わる頃には、どのように判断を行えばよいのか、判断の基準が身に付いているはずです。
この記事では、簿記2級の受験生はもちろん、マネージャーやマーケターの方が使いこなせなければならない会計・簿記の知識として「直接原価計算」を解説します。
目次
- 直接原価計算とは?
- 全部原価計算と直接原価計算の違いは?
- 製品原価とは
- 全部原価計算の損益計算書
- 全部原価計算の落とし穴
- 直接原価計算の損益計算書
- 直接原価計算の役割
- 全部原価計算から直接原価計算への修正
- 固変分解
- 変動費と固定費
- 直接原価計算を使った商品の収益性の把握
- ①変動費の計算
- ②貢献利益(限界利益)の計算
- ③固定費の計算
- ④集計したデータを元に分析
- ⑤アクションプランの検討
- 直接原価計算と全部原価計算のまとめ
- 実際に手を動かしてみよう
なお、原価計算を基礎からしっかり学びたい方は、まずは先に下記のトレーニングから始めてみてください。
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また、工業簿記の試験内容や学習方法については、下記の記事で詳しく解説しています。
工業簿記に苦手意識を持つ方は、ぜひこの記事とあわせてご覧ください。
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全部原価計算と直接原価計算の違いは?
全部原価計算と直接原価計算の違いは、原価を集計する方法にあります。
直接原価計算では、製品ごとの直接的なコストのみを把握できますが、全部原価計算では、製品やサービスの総合的なコストを把握することができます。
化粧品事業の責任者
そもそも…
製品原価ってなんですか?
製品原価とは
製品原価とは、製品やサービスを作るためにかかる費用のことです。企業は製品原価を把握することで、利益を上げるための戦略を立てることができます。
製品原価には、直接原価と間接原価があります。
- 直接原価
- 間接原価
直接原価は、製品やサービスに直接関係する費用です。原材料費や製品を製造する人の労働費などが該当します。
間接原価は、製品やサービスに関連はあるものの、特定の製品に直接割り当てることが難しい費用で、電気代や管理費、営業費などが該当します。
全部原価計算の損益計算書
全部原価計算は、製品やサービスの原価を計算する際に、直接原価と間接原価の両方(全部の原価)を集計します。これにより、製品やサービスの総合的なコストを把握することができます。
新卒くん
売上原価と販管費に集計されていますね。
これはよく見る形式の損益計算書ですね。
全部原価計算の落とし穴
販売価格から売上原価を差し引いた粗利(売上総利益)がプラスである場合、販売量を増やせば利益が増えるように思えます。
しかし、売上原価の他にも、配送費用や決済手数料など、商品を提供する際には様々な費用が発生します。このような販売量に応じて発生する費用が販管費にも含まれます。
そのため、全部原価計算による集計では、販売量と費用の発生の関係を正確に把握することが難しいという欠点があります。
この問題を解決するために、直接原価計算を用いて、販売量と直接的なコストの関係を詳細に分析することが重要です。
化粧品をECで販売するためには、化粧品の原価以外にも、配送料や決済手数料、包装材費用のようなコストが発生します。
これらのコストは、たいていは損益計算書の販管費に集計されています。
直接原価計算の損益計算書
直接原価計算は、製品やサービスの原価を計算する際に、まずは直接原価(変動費)のみを考慮して集計します。次に、販売数量とは関係なく発生する固定費を別途計上します。これにより、販売量と費用の発生の関係を明確に把握することができます。
新卒くん
なるほど。
直接原価計算の方が、販売に応じて発生する費用の金額が追いやすいのですね!
直接原価計算の役割
直接原価計算の主な目的は、製品やサービスを作るために直接かかる費用を正確に把握することです。
この情報をもとに、企業は利益を最大化するための戦略を立てることができます。
特に、短期的な利益計画を立案する場合には、直接原価計算が用いられます。なぜなら、直接原価計算によって、販売量の増減に伴うコストの変動を詳細に分析することが可能であるため、効果的な販売戦略やコスト削減策を立てることができるからです。
化粧品事業の責任者
なるほど。
経営戦略を考える時は、直接原価計算ベースで考えた方が望ましいのか!
全部原価計算から直接原価計算への修正
それでは、冒頭の事例に戻って考えてみましょう。
まず、現状の全部原価計算ベースの損益計算書から、直接原価計算ベースの損益計算書に集計を変更し、商品の収益性を正確に把握することが必要です。
固変分解
そのために、売上原価と販管費を、変動費と固定費に再分類します。
この作業を「固定費と変動費の分解」、略して「固変分解(こへんぶんかい)」と言います。
固変分解を行うことで、適切な経営判断を下すための基礎となる数値を整理できるようになります。
新卒くん
ところで…
変動費と固定費って何でしたっけ…?
変動費と固定費
変動費とは、売上に応じて変わる費用です。例えば、原材料費や運送費などがあります。変動費は、商品やサービスを1つ提供するためにかかる費用で、売上が増えると増える分だけ費用がかかります。
固定費とは、売上に関係なく一定の金額がかかる費用です。例えば、家賃や給与などがあります。固定費は、売上が増えても減っても変わらない費用です。
変動費と固定費について詳しく学びたい方はこちら
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直接原価計算を使った商品の収益性の把握
それでは1つずつ順に、商品の収益性を把握する手順を見ていきましょう。
化粧品事業の責任者
インフルエンサーの方に宣伝をお願いするべきだろうか?
直接原価計算を使って情報を整理してみよう。
①変動費の計算
まず、1単位あたりの提供で発生する費用(変動費)を計算しましょう。
化粧品ECビジネスでは、1単位あたりの提供で発生する変動費として、商品の仕入れ原価はもちろん、配送料、包装材費用、決済手数料が考慮されます。
- 商品の仕入れ原価:450円
- 配送料:540円
- 包装材費用:30円
- 決済手数料:30円
これらの金額を合計すると、1単位あたりの提供により、1,050円の費用が発生することがわかります。
化粧品事業の責任者
え…仕入原価以外にも、
こんなに変動費が発生していたなんて…
②貢献利益(限界利益)の計算
商品の価格データと変動費を元に、貢献利益(限界利益)を算出しましょう。
貢献利益とは、1つの商品やサービスを販売したときに得られる利益のことで、これを把握することで、商品やサービスの収益性を評価できます。
その結果、企業はどの商品やサービスに力を入れるべきか、判断しやすくなります。
化粧品は1つあたり1,000円で販売されています。一方で、1つ提供するたびに1,050円の変動費が発生しています。
- 販売単価:1,000円
- 変動費合計:1,050円
収益と変動費を比較すると、貢献利益はマイナス50円であり、赤字となっていることがわかります。つまり、商品が売れれば売れるほど赤字が拡大してしまう状態です。
③固定費の計算
次に、固定費を計算しましょう。固定費は販売数量と関係なく発生する費用です。
化粧品ECの事例では、サーバー費用、ECシステムの利用料、スタッフの人件費などが該当します。
これらの金額を合計すると、1か月あたり400,000円の固定費が発生することがわかります。
④集計したデータを元に分析
ここまでのデータをもとに分析を行いましょう。
赤字であることは既知ですが、商品の販売時点で赤字であるという事実は、全部原価計算ベースでは気づくことができませんでした。
もし、現状のまま宣伝を依頼していた場合、赤字はさらに拡大していたことが予想できます。
従って、無料であっても、宣伝は受けるべきではありません。
化粧品事業の責任者
え?この後は一体どうしたら?
販売戦略どころか、売ったらダメな状態では…
⑤アクションプランの検討
現状の分析が完了したら、次は今後のアクションプランを検討しましょう。
まず最も重要なのは、貢献利益の黒字化です。具体的には、販売単価を高めるか、変動費を削減することを検討します。
貢献利益が黒字化するまでは、どれだけ優れた販売戦略を立てても逆効果となってしまいます。
化粧品事業の責任者
赤字だからと言って、安易に売上を増やせばいいという訳ではないのか…
これは数字が読み取れないとわからないな!
このように、直接原価計算ベースで考えることで、商品の収益性を正しく把握することが可能となります。
これをもとに、適切な経営判断を行うことができるようになります。
直接原価計算と全部原価計算のまとめ
以上、直接原価計算を使った商品の収益性の分析プロセスの解説でした。
この記事では、直接原価計算の基本概念や、全部原価計算との違い、簿記や管理会計との関連性を詳しく解説しました。
簿記学習者や学生はもちろん、ビジネスパーソンにも役に立つ知識となるはずです。
これらの知識を活用して、分析力の向上を目指しましょう。
実際に手を動かしてみよう
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