損益分岐点とは?
損益分岐点とは、利益がゼロになる売上のポイントです。
売上高から総費用を引いた金額が、ちょうどゼロとなる売上高や販売数量を指します。
損益分岐点を把握することで、どれくらいの売上があれば利益を出せるかを知ることができ、適切な経営判断の基礎となります。
さっそくですが、上記の内容を踏まえて簡単なクイズです。
あなたは「おにぎり屋」の店舗マネージャーで、店舗の売上向上のために広告宣伝費を検討しています。
以下の条件が与えられた場合、広告宣伝を行うかどうか判断しましょう。
- 現在の販売数量:2,000個
- 広告を実施すると販売量が600個増加すると予想される
- 広告宣伝費:100,000円
それでは解説です。
この状況において、広告を使わない場合と使う場合のそれぞれの利益を計算して比較します。
計算の結果は次のようになります。
- 広告なしの場合:営業利益 30,000円
- 広告ありの場合:営業利益 20,000円
この結果から、広告を使った場合には売上高は増加しますが、最終的な利益は減ってしまうことがわかります。
したがって、現状の条件では広告宣伝は行わない方が適切であると判断できます。
このように、売上向上のための広告宣伝費の検討は、利益をしっかりと計算し比較することで、適切な経営判断が可能になります。
それでは、ここからが本題です。
仮に、上記と同様の条件の効果が期待できる場合、広告宣伝費がいくらだったら広告を行うという判断を下しますか?
最初は全くわからなくても問題ありません。この記事が読み終わる頃には、どのように判断を行えばよいのか、判断の基準が身に付いているはずです。
この記事では、マネージャーやマーケターの方が使いこなせなければならない会計・簿記の知識として「損益分岐点」を解説します。
目次
- 損益分岐点とは?
- 損益分岐点の計算方法
- 損益分岐点の目的
- 損益分岐点図表の作成手順
- 手順⓪基礎データの整理
- 手順①固定費線
- 手順②変動費線
- 手順③総費用線の把握
- 手順④売上高線
- 手順⑤損益分岐図表の完成
- 損益分岐点の計算
- 損益分岐点の事例:広告宣伝費の判断
- 広告の損益分岐点売上高
- 全体の損益分岐点売上高
- 損益分岐点の分析力を身に付けるには?
- 実際に手を動かしてみよう
なお、工業簿記の試験内容や学習方法については、下記の記事で詳しく解説しています。
工業簿記に苦手意識を持つ方は、ぜひこの記事とあわせてご覧ください。
関連記事
【日商簿記2級】工業簿記の試験内容や難易度、学習方法について解説
boki.funda.jp/blog/article/industrial-bookkeeping-2
boki.funda.jp/blog
それでは、まずは損益分岐点を理解する上で必要な基本的な利益とコスト項目を解説します。
また、「CVP分析の基礎」について学びたい方は、下記の記事もおすすめです。
関連記事
CVP分析とは?短期利益計画を立案するための知識を図解で解説!
boki.funda.jp/blog/article/cvp-entry
boki.funda.jp/blog
損益分岐点の計算方法
損益分岐点とは、利益と損失がゼロになる売上高の地点です。損益分岐点を計算するためには以下の構成要素を把握する必要があります。
- 変動費
- 貢献利益(限界利益)
- 固定費
これらの要素を用いて、損益分岐点を計算することができます。1つずつ解説します。
変動費
変動費とは、売上に応じて変わる費用です。例えば、原材料費や運送費などがあります。変動費は、商品やサービスを1つ提供するためにかかる費用で、売上が増えると増える分だけ費用がかかります。
貢献利益(限界利益)
貢献利益とは、1つの商品やサービスを販売したときに得られる利益のことです。貢献利益を把握することで、商品やサービスの収益性を評価できます。これにより、企業はどの商品やサービスに力を入れるべきか、判断しやすくなります。
固定費
固定費とは、売上に関係なく一定の金額がかかる費用です。例えば、家賃や給与などがあります。固定費は、売上が増えても減っても変わらない費用です。
損益分岐点の目的
損益分岐点を把握する目的は、事業が利益を出すために必要な売上を明確にし、適切な経営判断を行う基盤を作ることです。
事業マネージャーやマーケティング担当者の方は、自社のビジネスの損益分岐点を把握し、これらの目的に沿った経営判断を行うことで、企業の競争力を高めることができます。
損益分岐点を把握することで、具体的には以下のような利点があります。
- 目標設定
- 戦略立案
- リスク管理
目標設定
損益分岐点を計算することで、売上目標や利益目標を明確に設定し、組織全体で共有することができます。
戦略立案
適切な販売促進策や価格設定、コスト削減施策を立案し、利益を最大化する方向に経営資源を集中させることができます。
リスク管理
市場の変化や競合他社との競争が激化した場合に、損益分岐点を下回らないようにリスクを予測し、適切な対策を立てることができます。
損益分岐点図表の作成手順
損益分岐点を計算する際には、損益分岐点図表を作成することが望ましいです。
損益分岐点図表とは、企業の損益状況を視覚的に分かりやすく示すグラフです。
このグラフでは、横軸に売上量を、縦軸に収益・費用を表すラインを描画します。
ここでは、おにぎり屋を事例にして、損益分岐点図表の作成方法を説明します。
手順⓪基礎データの整理
まずはじめに、基礎データの整理が必要です。損益分岐点図表の作成には以下のデータが必要です。
- 販売単価
- 変動費
- 貢献利益
- 固定費
おにぎり屋を事例にあげると、下記のようなデータの整理となります。
手順①固定費線
データを元に、損益分岐点図表を作成していきます。
まずは、固定費線をプロットします。
固定費は売上量に関係なく一定の金額がかかるため、縦軸での固定費額に相当する水平線が固定費線です。
手順②変動費線
次は変動費線をプロットします。
変動費は売上量に応じて増加するため、原点から右上がりの斜め線が変動費線です。
手順③総費用線の把握
固定費線と変動費線の合計を総費用線といいます。
総費用線は、発生する費用の総額を意味します。
手順④売上高線
費用の情報をプロットしたら、次は収益の情報です。
販売単価を元に売上高線をプロットします。
売上高は販売量に応じて増加するため、原点から右上がりの斜め線が売上高線です。
手順⑤損益分岐図表の完成
ここまでの内容で、損益分岐点を把握することができます。
損益分岐点は、変動費線と売上高線が交差する点です。
この点を基準に、売上量が増えると利益が出始め、減ると損失が発生します。
損益分岐点の計算
それでは、上記のおにぎり屋の損益分岐点を計算しましょう。
損益分岐点は、固定費と変動費の合計である総費用の金額と売上高が一致する点です。
これに基づいて計算を進めると、以下のような結果が得られます。
- 損益分岐点売上高:360,000円
- 損益分岐点販売量:1,800個
損益分岐点の事例:広告宣伝費の判断
それでは、改めて冒頭のクイズを確認してみましょう。
もし、あなたが「おにぎり屋」の事業マネージャーの場合、いくらを下回れば広告宣伝を行いますか?
タップで回答を見ることができます
70,000円
80,000円
90,000円
100,000円
広告の損益分岐点売上高
それでは、広告宣伝費を使った場合の損益分岐点を計算しましょう。
まず、広告を利用することで得られる貢献利益の増分を計算します。
- 追加販売数量:600個
- 貢献利益:150円(売上200円-変動費50円)
- 貢献利益の総額:90,000円(600個×150円)
ここで計算された貢献利益の総額は、広告宣伝費を使って増える売上から変動費を引いた金額です。
この結果をもとに、広告宣伝費を使った場合の損益分岐点を求めることができます。
以上の結果を踏まえて、損益分岐点売上高は90,000円となります。
このことから、広告宣伝費が90,000円を下回る場合には利益が発生することが分かります。
一方、広告宣伝費が90,000円を上回る場合には、損失が発生するということが明らかになります。
全体の損益分岐点売上高
上記の内容を考慮し、広告宣伝費を90,000円で行うケースを損益分岐点図表に反映してみましょう。
広告宣伝費は固定費に該当するので、固定費線に広告宣伝費の金額分を加算します。
固定費が増加することにより、損益分岐点も上昇します。
広告を行わないケースでの損益分岐点販売量は1,800個でしたが、広告を行うケースでは、損益分岐点販売量が2,400個まで増加することが確認できます。
損益分岐点の分析力を身に付けるには?
損益分岐点は、企業の収益性やコスト構造を理解し、適切な経営判断を行うための重要なツールです。本記事では、事業マネージャーや、マーケティング担当者向けに初心者でもわかる損益分岐点分析の概要や計算方法、固定費・変動費の分解、限界利益の把握、損益分岐点の計算について分かりやすく解説しています。
これらの知識を習得することで、実際のビジネスシーンでも役立つスキルを身につけられます。
実際に手を動かしてみよう
損益分岐点分析をはじめとした、実践的な会計思考を身に付けたい方は、簿記学習アプリ「Funda簿記」がお勧めです。
様々なパターンの実践演習が解けるのみならず、データ整理の手法なども基礎からしっかり学ぶことができます。
まずは公式LINEより、実践演習に挑戦してみてください。
LINEアプリにて、上記のような分析トレーニングを行うことができます。