パーシャルプランとシングルプランの違いは?
標準原価計算の勘定記入方法には、下記の2種類があります。
- パーシャルプラン
- シングルプラン
パーシャルプランとシングルプランの違いは、原価差異を計算する位置です。パーシャルプランでは、仕掛品勘定で原価差異を計算します。一方、シングルプランでは原価要素勘定で原価差異を認識することとなります。
新卒くん
これだけではよく分からないです…
パーシャルプランとシングルプランは混乱してしまう方が非常に多い論点です。
この記事では、パーシャルプランとシングルプランの違いや覚え方、実際の記入方法についてを事例を用いてわかりやすく解説します。
目次
- パーシャルプランとシングルプランの違いは?
- 標準原価計算の概要
- 工業簿記の勘定記入
- パーシャルプランの意味
- パーシャルプランの全体像
- シングルプランの意味
- シングルプランの全体像
- パーシャルプランとシングルプランの覚え方
- パーシャルプランの記入方法
- ステップ①:実際発生額の計算
- ステップ②:実際原価で仕掛品に振り替え
- ステップ③:仕掛品から製品に振り替え
- ステップ④:原価差異の計算
- ステップ⑤:売上原価の計算
- パーシャルプランの全体の流れ
- 損益計算書上の表示
- シングルプランの記入方法
- ステップ①:標準原価で仕掛品に振り替え
- ステップ②:仕掛品から製品に振り替え
- ステップ③:実際発生額の計算
- ステップ④:原価差異の計算
- ステップ⑤:売上原価の計算
- シングルプランの全体の流れ
- 損益計算書上の表示
- 実際の試験問題に挑戦
- 簿記2級の試験問題
- 問題の解説
- シングルプランの場合の仕訳事例
- パーシャルプランとシングルプランの違いまとめ
- 実際に手を動かしてみよう
なお、原価計算を基礎からしっかり学びたい方は、まずは先に下記のトレーニングから始めてみてください。
おすすめトレーニングシリーズ
また、工業簿記の試験内容や学習方法については、下記の記事で詳しく解説しています。
工業簿記に苦手意識を持つ方は、ぜひこの記事とあわせてご覧ください。
関連記事
【日商簿記2級】工業簿記の試験内容や難易度、学習方法について解説
boki.funda.jp/blog/article/industrial-bookkeeping-2
boki.funda.jp/blog
標準原価計算の概要
標準原価計算とは、あらかじめ目標となる原価(標準原価)を定めて、標準原価によって製品原価を計算する方法です。
標準原価計算を基礎からしっかり学びたい方は、下記の記事をご覧ください。
関連記事
標準原価計算とは?目的や実際原価計算との違いをわかりやすく解説
boki.funda.jp/blog/article/standard-costing
boki.funda.jp/blog
工業簿記の勘定記入
標準原価計算の勘定記入の論点として、パーシャルプランとシングルプランの2種類の方法があります。
工業簿記の勘定記入を理解する際に、「勘定連絡図」を抑えることが重要です。
勘定連絡図は、原価計算の過程を視覚的に理解するためのツールです。
具体的には、材料費、労務費、経費のような製造原価を構成する要素が、どのような過程を通じて製品製造に関連するかを示します。それにより、製品の原価がどのように計算されるかを視覚的に追うことができるようになります。
勘定連絡図を基礎から理解したい方は、こちらの記事がおすすめです。
関連記事
【図解】勘定連絡図とは?簿記2級工業簿記の仕訳をわかりやすく解説
boki.funda.jp/blog/article/cost-accounting-journal-entry
boki.funda.jp/blog
それでは、ここから、パーシャルプランとシングルプランを詳しく解説していきます。
パーシャルプランの意味
パーシャルプランとは、仕掛品勘定の一部を実際原価で記入する方法です。
従って、仕掛品勘定は実際原価と標準原価が混合した状態となります。
パーシャルプランの全体像
パーシャルプランは、仕掛品勘定にて、原価差異を計算する記帳方法です。
シングルプランの意味
シングルプランとは、仕掛品勘定のすべてを標準原価で記入する方法です。
実際原価と標準原価の差額は各原価要素勘定で計算されます。
シングルプランの全体像
シングルプランは、材料・賃金・製造間接費勘定で、原価差異を計算する記帳方法です。
パーシャルプランとシングルプランの覚え方
パーシャルプランは、仕掛品勘定に実際原価と標準原価が混合し、原価差異は仕掛品勘定で認識する記入方法です。
一方、シングルプランは、仕掛品勘定には標準原価が記入され、原価差異は原価要素勘定で認識する記入方法です。
大手町さん
どこで標準と実際の差異を認識するかにより2つのパターンの記入方法が存在しますが、記入方法の違いで、最終的な結果への相違はありません。
新卒くん
ただの表示形式の違いの話なんですね。
パーシャルプランの記入方法
それでは、ここからは取引事例を用いてパーシャルプランの記入方法と帳簿上の動きを解説します。
ステップ①:実際発生額の計算
「当月の直接材料費の実際消費金額は1,200円であった。材料費は全額現金で当月購入し、全額を当月消費したものとする。」
材料費を現金で購入しているため、材料が増加し現金が減少します。
そのため、借方(左側)に材料(資産)1,200円を記入し、貸方(右側)に現金(資産)1,200円を記入します。
ステップ②:実際原価で仕掛品に振り替え
「当月の直接材料費の実際消費金額は1,200円である。材料勘定から仕掛品勘定に振り替える。なお、パーシャル・プランを採用しているものとする。」
材料勘定から仕掛品勘定に振り替えるため、仕掛品が増加し材料が減少します。
そのため、借方(左側)に仕掛品(資産)1,200円を記入し、貸方(右側)に材料(資産)1,200円を記入します。
ステップ③:仕掛品から製品に振り替え
「当月の仕掛品が全額完成した。完成品に振り替える標準原価は1,000円であり、仕掛品勘定から製品勘定に振り替える。※今回はわかりやすいように原価要素を材料のみの場合で想定」
標準原価で仕掛品勘定から製品勘定に振り替えるため、製品が増加し仕掛品が減少します。
そのため、借方(左側)に製品(資産)1,000円を記入し、貸方(右側)に仕掛品(資産)1,000円を記入します。
ステップ④:原価差異の計算
「標準直接材料費が1,000円に対して実際直接材料費は1,200円である。差額の200円を原価差異(材料消費差異)として振り替える。」
標準原価と実際原価の差額200円を原価差異として振り替えます。
したがって、借方(左側)に原価差異(費用)200円を記入し、貸方(右側)に仕掛品(資産)200円を記入します。
ステップ⑤:売上原価の計算
「当月販売した製品を、売上原価勘定に振り替えます。」
販売が完了した製品は売上原価となり、はじめて費用に計上されます。
よって、借方(左側)に売上原価(費用)1,000円を記入し、貸方(右側)に製品(資産)1,000円を記入します。
「原価差異を売上原価に振り替えます。」
最後に、原価差異を売上原価に振り替えることで、売上原価の金額が実際原価となります。
したがって、借方(左側)に売上原価(費用)200円を記入し、貸方(右側)に原価差異(費用)200円を記入します。
パーシャルプランの全体の流れ
パーシャル・プランでは、原価差異は仕掛品勘定で計算します。
全体の流れを理解していると、本番でスムーズに解けるため下図の流れを覚えておきましょう。
損益計算書上の表示
損益計算書の表示でも、発生した原価差異は売上原価で調整されます。
シングルプランの記入方法
次に、シングルプランの記入方法と帳簿上の動きを取引事例を用いて解説します。
ステップ①:標準原価で仕掛品に振り替え
「当月の標準直接材料費の消費金額は1,000円である。材料勘定から仕掛品勘定に振り替える。なお、シングルプランを採用しているものとする。」
標準原価で材料勘定から仕掛品勘定に振り替えるため、仕掛品が増加し材料が減少します。
そのため、借方(左側)に仕掛品(資産)1,000円を記入し、貸方(右側)に材料(資産)1,000円を記入します。
ステップ②:仕掛品から製品に振り替え
「当月の仕掛品が全額完成した。仕掛品勘定から製品勘定に振り替える。※今回はわかりやすいように原価要素を材料のみの場合で想定」
完成品原価は標準原価で振り替えられます。
仕掛品勘定から製品勘定に振り替えるため、製品が増加し仕掛品が減少します。
そのため、借方(左側)に製品(資産)1,000円を記入し、貸方(右側)に仕掛品(資産)1,000円を記入します。
ステップ③:実際発生額の計算
「当月の直接材料費の実際消費金額は1,200円であった。材料費は全額現金で当月購入し、全額を当月消費したものとする。」
材料費を現金で購入しているため、材料が増加し現金が減少します。
そのため、借方(左側)に材料(資産)1,200円を記入し、貸方(右側)に現金(資産)1,200円を記入します。
材料勘定の借方(左側)には実際原価が記入され、材料勘定の左右で金額がズレます。
ステップ④:原価差異の計算
「標準直接材料費が1,000円に対して実際直接材料費は1,200円である。差額の200円を原価差異(材料消費差異)として振り替える。」
材料勘定で発生したズレを、原価差異勘定に振り替えます。
したがって、借方(左側)に原価差異(費用)200円を記入し、貸方(右側)に材料(資産)200円を記入します。
ステップ⑤:売上原価の計算
「当月販売した製品を、売上原価勘定に振り替えます。」
販売が完了した製品は売上原価となり、はじめて費用に計上されます。
よって、借方(左側)に売上原価(費用)1,000円を記入し、貸方(右側)に製品(資産)1,000円を記入します。
「原価差異を売上原価に振り替えます。」
最後に、原価差異を売上原価に振り替えることで、売上原価の金額が実際原価となります。
したがって、借方(左側)に売上原価(費用)200円を記入し、貸方(右側)に原価差異(費用)200円を記入します。
シングルプランの全体の流れ
シングルプランでは、原価差異は原価要素勘定(材料など)で計算します。
パーシャルプランと混同しないよう注意しましょう。
損益計算書上の表示
損益計算書の表示は、パーシャルプランとシングルプランで相違はありません。
実際の試験問題に挑戦
それでは、ここまでの内容を踏まえて、実際の試験問題に挑戦してみましょう。
簿記2級の試験問題
次の取引について仕訳しなさい。
「標準直接労務費を仕掛品勘定に振り替える。標準原価計算精度を採用している当社において、直接労務費の原価標準は、標準賃率1,300円/時間、製品1個あたり標準直接作業時間5時間として計算している。当月の生産実績は完成品100個のみであり、直接労務費の実際発生額は654,500円であった。なお、勘定記入の方法はパーシャルプランを採用している。」
問題の解説
それでは、解答解説に入ります。
賃金勘定から仕掛品勘定に振り替えるため、借方に仕掛品、貸方に賃金となります。
パーシャルプランでは、仕掛品勘定にて原価差異を認識するため、実際原価の金額で振り替える必要があります。
したがって、実際の発生額である654,500円を記入します。
シングルプランの場合の仕訳事例
シングルプランでは、賃金勘定にて原価差異を認識するため、標準原価の金額で振り替える必要があります。
したがって、借方(左側)に仕掛品(資産)650,000円を記入し、貸方(右側)に賃金・給料(費用)650,000円を記入します。
賃金勘定の借方は実際原価(654,500円)で、貸方は標準原価(650,000円)のため、原価差異(4,500円)が賃金勘定にて発生します。
パーシャルプランとシングルプランの違いまとめ
今回は標準原価計算の勘定記入方法である「パーシャルプラン」と「シングルプラン」を解説しました。
両者の違いは原価差異を仕掛品勘定で認識するか、原価要素勘定で認識するかです。
工業簿記では頻出の論点であるため、本番で混同しないようにしましょう!
実際に手を動かしてみよう
簿記学習アプリ「Funda簿記」では、標準原価計算の問題をたくさん解くことができます。
練習問題を通じて、パーシャルプランとシングルプランの記入方法を身に付けましょう。
少しでも会計や決算書に興味を持った方は、下記の公式LINEも覗いてみてください。
初学者向けに、基礎から解説する情報を発信しています。
また、しっかり学びたい方は、ぜひ学習アプリ「Funda簿記」をご覧ください。
アプリ内で決算書の構成や作り方を学ぶことができます。