変動費と固定費の違いとは
変動費と固定費の違いとは、販売数量の規模に応じてコストの負担が変わるかどうかです。販売数量が増加した場合、変動費の負担は大きくなります。一方で、固定費は規模に関係なく一定額発生するためコストであるため急激に大きくなることはありません。この違いが変動費と固定費の主な違いです。
変動費と固定費は、企業が製品やサービスを生産・提供するために発生する費用のパターンや性質を示す概念です。この分類は、製品の価格設定、ビジネスの拡大縮小、利益最大化の戦略など、多くの重要なビジネス決定に影響を与えます。
早速ですが、この変動費と固定費をテーマにした簡単なクイズです。
2021年から2023年にかけて、大きく損益計算書の収益率が変わった業種は、選択肢のうちどれでしょう?
現時点では、さっぱりわからなくても問題ありません。
この記事が読み終わる頃には、変動費や固定費の理解が深まり、コスト構造分析の基本的な考え方が身に付いているはずです。
簿記試験の受験生はもちろん、マネージャーやマーケター、投資家の方が使いこなせなければならない会計・簿記の知識としてコスト構造分析を解説します。
目次
- 変動費と固定費の違いとは
- コスト構造の分類
- 変動費とは
- 変動費の求め方
- 変動費の英語表記
- 具体的な変動費の種類
- 変動費の比率が高いビジネス
- 固定費とは
- 固定費の求め方
- 固定費の英語表記
- 具体的な固定費の種類
- 固定費の比率が高いビジネス
- 企業事例でわかる変動費と固定費の動き
- 登場企業の財務数値の変化
- 変動費中心のコスト構造
- 固定費中心のコスト構造
- 変動費と固定費の違い:まとめ
- 実際に手を動かしてみよう
- 類似事例を学びたい方
なお、工業簿記の試験内容や学習方法については、下記の記事で詳しく解説しています。
工業簿記に苦手意識を持つ方は、ぜひこの記事とあわせてご覧ください。
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コスト構造の分類
経営戦略を考える際に有用となる代表的なコストの分類方法として、主に以下の2つが存在します。
- 変動費
- 固定費
これらの分類を理解することは、製品の収益性を分析したり、また価格決定や販売促進などの経営戦略を策定するための基礎となります。
新卒くん
変動費と固定費…
よく耳にはしますが、いまいちよくわかっていません。
基礎から解説してください。
変動費とは
変動費とは、生産量または提供するサービスの量に直接関連して増減する費用のことを指します。
つまり、製品やサービスの販売量が1つ増えるたびに発生する追加の費用が変動費です。
例えば、製品を作るための直接材料費や直接労務費などがこれに該当します。製品1個あたりの材料費は一定ですが、製品の数が増えればその分だけ総材料費が増えるのが変動費の特性です。
変動費の求め方
変動費の求め方は、売上高の金額に変動費率を乗じることで算出されます。
計算式で表すと下記のようになります。
- 変動費(円)=売上高(円)×変動費率(%)
変動費の英語表記
変動費は英語で「Variable Costs」と表記されます。
「Variable」という単語は「可変の」または「変動する」を意味します。ビジネスの文脈では、それがビジネスの規模や生産量によって変わることを示します。
したがって、「Variable Costs」 は、生産量や売上によって変わる費用のことを指します。
具体的な変動費の種類
代表的な変動費の事例には、下記のようなものがあります。
これらの費用は、生産量や売上の増加と共に費用の額も増加するという性質を持っています。
- 原材料費
- 直接労務費
- 輸送費
- 委託生産費
- パッケージング費用
- 売上に連動したロイヤルティ料
- 販売手数料
変動費の比率が高いビジネス
変動費の比率が高いビジネスは、売上が増えればその分だけコストも増えますが、逆に売上が減ればコストも減ります。つまり、ビジネスのリスクは低いと言えます。なぜなら、売上が少ない場合、発生するコストも少なくなる傾向にあるからです。
固定費とは
固定費とは、生産量やサービスの提供量に関係なく一定の金額が発生する費用のことを指します。
これは、たとえ製品やサービスが1つも作られなかったとしても発生する費用で、例えば建物のレンタル料や機械の減価償却費、管理部門の人件費などがあります。
固定費の求め方
固定費の求め方は比較的シンプルで、特定の期間における一定の固定費の費用を合計するだけです。具体的には下記のようなアプローチとなります。
1. 固定費の特定
固定費に該当する項目を特定します。これには、家賃、減価償却費、給与などが含まれることが多いです。
2. 各項目の合計
各固定費項目の金額を特定の期間(例:月、四半期、年)で合計します。
固定費の英語表記
固定費は英語で 「Fixed Costs」と表記されます。「Fixed」という単語は「固定された」または「不変の」を意味します。ビジネスのコンテキストでは、それがビジネスの規模や生産量に関わらず一定であることを示します。
したがって、「Fixed Costs」とは、ビジネスの規模や生産量に関わらず一定額発生する費用のことを指します。
具体的な固定費の種類
代表的な固定費の種類には、下記のようなものがあります。
- 正社員の人件費
- 家賃
- 減価償却費
- 水道・電気・ガスの基本料金
- 保険料
- ソフトウェアのライセンス料
固定費の比率が高いビジネス
固定費の比率が高いビジネスは、一定の売上を上げるまでの「損益分岐点」が高いと言われます。
なぜなら、売上が少ない場合でも固定費が一定額発生するため、これを回収するためには一定以上の売上が必要だからです。
しかし、損益分岐点を超えると、追加の変動費がほとんど発生しないため、売上が増えるごとに利益は急激に増加します。これは、高い固定費をカバーするための初期のハードルを超えれば、大きな収益性を達成する可能性があるからです。
製造業やホテル業、航空業などが固定費の比率が高いビジネスの例です。
これらの業界では、設備投資や施設維持費などの固定費が大きな部分を占めます。
新卒くん
まぁ、ここまではなんとなくわかります。
ただ、実際の企業事例を使って解説してほしいです。
企業事例でわかる変動費と固定費の動き
それでは、ここからは、変動費と固定費の動きについてを、実際の企業事例で解説します。
改めて冒頭のクイズに挑戦してみてください。
変動費と固定費の意味を理解したうえで、解きなおすと、見える景色も変わるはずです。
タップで回答を見ることができます
①人材派遣業
②小売業
③ホテル業
新卒くん
利益率が急激に増加していますね。
これは、何が起こっているのでしょうか?
学生くん
原価が小さくなっている?
急激に原価が小さくなるケースってどんな状況が考えられるかな?
わかりましたか?
正解は③ホテル業でした。
今回取り上げた3つの業種は、ある特徴が顕著に表れる業種を選びました。
それは、総コストに占める変動費と固定費の比率です。
人材派遣業と小売業は、総費用に占める変動費の比率が高い業種です。
一方、ホテル業は総費用に占める固定費の比率が高い業種となっています。
新卒くん
へー。
全然気づきもしませんでした。
登場企業の財務数値の変化
それでは、まずは3つの業種から、今回は下記の企業の財務数値を事例に解説していきます。
- 人材派遣業:パソナグループ
- 小売業:ワークマン
- ホテル業:ABホテル
人材派遣業:パソナグループの財務数値の変化
パソナグループの2020年5月から2022年5月の財務数値の変化を見てみましょう。
両者を並べてみると、大きな変化は見られません。
小売業:ワークマンの財務数値の変化
次は小売業であるワークマンの2021年3月から2023年3月の財務数値の変化を見てみましょう。
並べてみてもわかるように、大きな変化は見られません。
ホテル業:ABホテルの財務数値の変化
最後はホテル業であるABホテルの2021年3月から2023年3月の財務数値の変化です。
上記2社と異なり、大きく収益性に変化が見られます。
具体的には、2023年3月期は営業利益率が大きく向上していることが読み取れます。
学生くん
3社の数値を並べると、ホテル業だけ明らかに違う動きをしますね。
なぜこのような動きになるのでしょうか?
それでは、ここからは3つの企業のコスト構造を把握します。
変動費中心のコスト構造
人材派遣業を営むパソナグループと、小売業を営むワークマンは、変動費中心のコスト構造となっています。
パソナグループの売上原価の大部分は、売上高に伴って発生する派遣人材への報酬です。
一方、ワークマンの売上原価の大部分は、商品の販売原価となっており、いずれも販売量に応じて発生する変動費です。
両者の売上高と売上原価の推移を確認してみましょう。
売上高の動きと同様に、売上原価の金額が増減していることがわかります。
このことからも、両者のコストの大部分が変動費で構成されていることを表しています。
新卒くん
なるほど。
収益と費用が同じような動きをするので、利益率が急激に変化することが少なそうですね。
固定費中心のコスト構造
次は、固定費中心のホテル業の数値を見ていきましょう。
ABホテルは、ホテル事業を営む上場企業です。売上高の大部分はホテル事業による売上となっています。
決算資料に開示されている売上原価の内訳を確認すると、売上原価の大部分が賃料や減価償却費などの固定費で構成されていることが読み取れます。
学生くん
ホテル事業の固定費というのは、1人利用しようが100人利用しようが、変わらずに一定金額発生する費用ということですね。
それでは、固定費中心のABホテルの業績推移を確認してみましょう。
変動費中心の2社と異なり、売上高と売上原価の動きが必ずしも一致しません。
2021年の数値は、コロナの影響により大きく売上高が減少しているにも関わらず、売上原価は前年と同水準発生しています。
その後、コロナ収束を迎え、ホテル利用者が大きく増加した2023年は、売上高が2021年の2倍近くまで増加しています。
一方で、売上原価に関しては例年と同水準の数値となっていることがわかります。
このように、コスト構造を把握することで、業績を向上させるための戦略を立てやすくなります。
新卒くん
販売数量に関係なく、一定金額の固定費が発生するのであれば、売上が増加する分だけ利益率も大きく上昇するというわけですね!
変動費と固定費の違い:まとめ
以上、コスト構造による財務数値の変化でした。
コスト構造によって、売上高が増加したときの利益率への貢献が大きく異なります。
ぜひ、企業分析を行う際には、コスト構造に着目してみてください。
実際に手を動かしてみよう
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類似事例を学びたい方
以上、今回はコスト構造のケーススタディでした。
ここまでお付き合い頂きありがとうございます。
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以上、お付き合いいただきありがとうございました。