財務分析とは、企業の健全性や成長性を評価するための重要なツールであり、投資家や経営者にとって必須のスキルとなっています。
この記事では、「不正を行った会社」の決算数値を題材に、財務分析の基本的な概念から、より深い理解を得るための高度なテクニックまで、一歩一歩詳しく解説していきます。
新卒くん
決算書を見ても、どの数字を見ればいいのかわかりません。
基本的な読み方を教えてほしいです。
それでは、早速クイズです。
粉飾が判明した会社の決算数値です。
どのような内容の粉飾が行われたでしょうか?
- 架空取引
- 循環取引
- 資本の水増し
現時点で全くわからなかったとしても、心配は不要です。
この記事を通じて、決算数値を分析する際の重要な視点を身につけることができます。
財務諸表分析というテーマは複雑に思えるかもしれませんが、図解と事例を通じて初心者でもわかるように解説します。
ぜひ最後まで読み進めて、財務分析の知識を深めてください。
目次
- ストーリーでわかる財務数値の動き
- 登場企業の紹介
- 業績の推移から傾向を読み取る
- 現金の動きから取引内容を読み取る
- 資産の内訳から取引内容を読み取る
- 見せ金とは?
- 仕訳から読み取る取引内容
- 粉飾の影響
- 数字の動きから違和感を読み取るには?
- 基礎知識を身に付けよう
- 数字に触れよう
- 分析力を鍛えるトレーニング
今回は財務分析トレーニング第4弾として、業績が傾いてしまった企業の決算数値を題材に、粉飾決算の特徴や決算書を読む際の着眼点を解説します。
前回以前の財務分析トレーニングを最初の回からチェックしたい方は、下記からご覧ください。
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財務分析トレーニング①倒産する企業を決算数値から当てよう!
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ストーリーでわかる財務数値の動き
まずは、粉飾前後の数字の動きをストーリーで紹介します。
一緒に決算書を読んでいるつもりで付いてきてください。
登場企業の紹介
今回の事例企業は、株式会社丸石自転車(以下丸石自転車)です。丸石自転車は、1909年設立の老舗自転車メーカーです。
粉飾時の決算数値を元に、違和感のある数字を一緒に見つけていきましょう。
業績の推移から傾向を読み取る
まずは、丸石自転車の損益計算書の業績の推移を確認します。
売上高、各種利益ともに減少傾向にあることが読み取れます。
次は、現金の動きを見ていきます。
投資活動によるキャッシュ・フローを確認すると54億円の投資をしていることが読み取れます。
一方、財務活動によるキャッシュ・フローでは64億円の現金を調達しているようです。
新卒くん
なるほど!
業績が傾いてきたので、勝負の投資を行ったのですね。
学生くん
お金を外部から調達して、そのお金を投資に回したのですね。
いったい何に投資したのか気になりますね。
業績の傾いてきた丸石自転車は、何に投資をしたのでしょうか?
投資の中身を見るために、キャッシュ・フロー計算書の中身を確認していきましょう。
キャッシュ・フロー計算書の読み方についてはこちら
現金の動きから取引内容を読み取る
キャッシュ・フロー計算書の詳細を確認します。
資金調達の状況を反映する財務活動によるキャッシュ・フローを確認すると、「株式の発行による収入」により、52億円の現金が流入していることがわかります。
新卒くん
株式を発行して、投資家から資金を調達したのですね。
それでも、52億円は高額ですね。
次は、投資の状況を確認します。
投資活動によるキャッシュ・フローを確認すると、「短期貸付金による支出」が52億円あることが読み取れます。
学生くん
え?
お金を調達して、そのお金をそのまま貸したということですか?
新卒くん
ははーん。僕はわかりましたよ。
高利率で貸し付けて利益を得るつもりですね?
さて、この短期の貸付金はどのような狙いがあるのでしょうか?
次は、貸借対照表の資産の内訳から、この貸付金の詳細についてを確認していきます。
資産の内訳から取引内容を読み取る
資産の中身を確認すると、短期の貸付金が急激に増加していることがわかります。
しかし、短期の貸付金が50億円近く増加しているにもかかわらず、それを構成する流動資産の金額は5億程度しか増加していません。
その背景には、貸倒引当金の増加があります。
貸倒引当金が前期に比べて大きく増加していることから、流動資産はそこまで増加していないようです。
貸倒引当金とは、債権に対する貸倒れの見積り高を表す評価勘定です。
貸倒れとは、売上債権が取引相手の経営環境の悪化等により回収不能となる状態のことをいいます。
貸倒引当金について、基礎から学びたい方は、下記の記事をぜひご覧ください。
関連記事
【図解】貸倒引当金とは?簿記の勘定科目を仕訳でわかりやすく解説
boki.funda.jp/blog/article/allowance-for-doubtful-accounts
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さて、ここでクイズです。
今回の事例において、貸倒引当金は、どの勘定科目に設定されているでしょうか?
タップで回答を見ることができます
①現金及び預金
②棚卸資産
③短期貸付金
学生くん
貸倒引当金?
もしかして短期の貸付金に設定されているのですか?
新卒くん
え?短期の貸付金は「勝負の投資」ではなかったのですか?
貸倒引当金が設定されている背景について、追記情報を確認してみましょう。
追記情報によると、短期貸付金の回収可能性が低いことから、貸倒引当金が設定されているとのことです。
新卒くん
多額の資金を調達し、そのお金を貸し付けて、挙句の果てにはそのお金を回収することができないってこと?
意味が分かりませんね。
この取引の違和感に皆さんは気づきましたか?
これが今回の「見せ金」という不正の内容です。
見せ金とは?
見せ金とは、実態のない資本の仮装取引です。本来であれば資本金となるべき出資金が会社に残らず、書類上は資本金が増えているものの、実質的には会社にお金が存在しない状態となります。見せ金は、会社法違反となります。
ここからは、仕訳から見せ金の仕組みを見ていきましょう。
仕訳から読み取る取引内容
まずは、株式を発行し、出資者から資金を調達します。
現金が増加すると共に、資本金の金額も同額増加します。
その後、調達した現金を出資関係者に貸付金という形で戻します。
その結果、資産の中身が、現金から貸付金に入れ替わります。
この取引を通じて、資本金の金額を水増しさせています。一方で、資産には貸付金が残っていますが、事実上回収することは困難であるため、まったく意味をなさない資産となります。
粉飾の影響
業績が低迷してくると、純資産の金額も徐々に減少していき、財務基盤が不安定となります。
そこで、資本金を水増しすることで、「財務基盤が整っている会社」に偽装することが狙いと推測できます。
数字の動きから違和感を読み取るには?
以上、今回のクイズの正解は選択肢③資本の水増しでした。
皆さんはわかりましたか?
今回の事例から学ぶべきポイントは、「数字の動きから違和感を読み取る重要性」です。
いきなりは難しいかもしれませんが、1つずつ知識を身に付けることで、確実に数字からビジネスを読み取る力が身に付きます。
ここからは、数字から違和感を読み取るための知識の身に付け方を紹介します。
基礎知識を身に付けよう
決算書の勘定科目が何を意味しているのかを知ることが大切です。
今回のケースでは、「資本金」「貸倒引当金」という科目がわからなければ、違和感に気づくことができません。
従って、まずは簿記3級レベルの基礎知識を身に付けることが大切です。
数字に触れよう
決算数値がどのように出来上がるのかを学ぶことで、どのような取引が行われているかを知ることが可能となります。
今回のケースでは、増資の取引の流れを知らなければ違和感に気づくことができません。
このように、ビジネスの流れと、数字の動きを体で覚えることは分析力の向上に繋がります。
分析力を鍛えるトレーニング
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