循環取引とは?
循環取引とは、複数の企業が共謀して商品の転売などを繰り返すことにより、取引が存在するかのように仮装し、売上や利益を水増しする手法を指します。 これらの行為は不正会計に該当します。
それでは、早速クイズです。
下記の3つの指標は、実際に循環取引による不正を行った会社の決算数値です。
3つの指標のうち、粉飾されている指標はどれでしょうか?
- 売上高
- 総資産
- 営業活動によるキャッシュフロー
タップで回答を見ることができます
売上高
売上高と総資産
売上高と総資産とキャッシュ・フロー
すべて正しい
新卒くん
え…
どれも怪しく見えてしまいますね…
現時点で全くわからなかったとしても、心配は不要です。
この記事を通じて、あなたは決算数値を分析する際の重要な視点を身に付けることができます。
財務分析というテーマは複雑に思えるかもしれませんが、図解と事例を通じて初心者でもわかるように解説します。
ぜひ最後まで読み進めて、財務分析の知識を深めてください。
目次
- 循環取引とは?
- 循環取引のパターン
- 循環取引の特徴
- 循環取引の企業事例は?
- 循環取引の事例企業の紹介
- 不正の金額
- 粉飾前後の数値の比較
- 決算書を見る際のポイントは?
- 回転期間が壊れにくい循環取引
- 現金と利益の動きの不整合
- 時系列分析の重要性
- 決算書の読み方の鍛え方は?
- 基礎知識を身に付けよう
- 数字に触れよう
- 分析力を鍛えるトレーニング
新卒くん
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まずは、循環取引の基本についてを解説します。
循環取引のパターン
循環取引には、多様なパターンが存在します。
まずは、代表的なパターンを紹介します。
- スルー取引
- Uターン取引
- クロス取引
スルー取引
スルー取引とは、自社が受けた注文を物理的・機能的に付加価値の増加を伴わず他社へそのまま回し、帳簿上通過するだけの取引です。
複数の企業が共謀して売上を水増しするために実施されることが考えられます。
Uターン取引
Uターン取引とは、商品・製品等が、最終的に起点となった企業に戻ってくる取引のことを指します。
複数の企業を経由する間に手数料等が上乗せされた状態で、商品・製品等が起点となった企業へ還流されることが考えられます。
クロス取引
クロス取引とは、複数の企業が互いに通常の価格より高い価格水準にて商品・製品等を販売し合い、在庫を保有し合う、又はある企業が在庫を保有せずに他の複数の企業に対し相互にスルーする取引のことを指します。
取引相手と共謀して自社の商品・製品等を高い価格で販売する代わりに、相手の商品・製品等についても通常価格よりも上乗せした価格にて購入することで、互いに売上を良く見せようとすることが考えられます。
バーター取引と呼ばれることもあります。
新卒くん
要するに仲間内で商品を転売して、売上や利益だけを水増しする取引ということですね。
学生くん
内容はシンプルですが、全体像がわからないと、見つけるのはかなり難しそうですね。
この循環取引は、発見することが非常に困難な不正といわれています。
ここからは、その理由についてを紹介します。
循環取引の特徴
循環取引の厄介な点は、個別の取引自体は正常に見えるということです。
このような理由から、非常に発見することが難しい不正と言われています。
ここからは、循環取引の特徴についてを紹介します。
- 実在する取引先
- 実際に決済が行われる
- 会計記録などが偽造される
実在する取引先
循環取引の特徴の1つ目は、取引先が実在することが挙げられます。
これは、取引の信憑性を保つために必要な要素であり、取引先が架空のものであるとすぐに不正が露見してしまうからです。
実際に決済が行われる
循環取引の特徴の2つ目は、資金決済が実際に行われるケースが多いことです。
これもまた、取引の信憑性を保つための重要な要素であり、資金の流れが存在しないと取引が成立しないと見なされるためです。
会計記録などが偽造される
循環取引の最も重要な特徴は、会計記録や証憑の偽造、または在庫等の保有資産の偽装が行われることです。
これは、取引の実態を隠蔽し、不正な利益を得るための手段となります。
新卒くん
なるほど…
確かに、普通の取引レベルでは見分けがつきませんね。
学生くん
循環取引をした場合、どのような決算数値になるのか気になりますね。
循環取引の企業事例は?
ここからは、実際の粉飾事例をもとに、循環取引による不正を解説します。
循環取引を行う場合、どのような数字になるのかを見ていきましょう。
循環取引の事例企業の紹介
今回は、粉飾決算が発覚した上場企業、株式会社アイ・エックス・アイ(以下IXI)の事例を紹介します。
IXIの主な事業内容は、コンピューターシステムの開発・販売等でした。
IXIの粉飾決算事件は、商品価値のないCD-ROM約400枚を約300億円の価値があると偽って決算報告していたことが発覚したものです。
CD-ROMは「販売予定」商品と「販売済み」商品の複製品の2種類があり、「販売予定」のものは資産に、「販売済み」のものは売上高として計上し、決算報告書などを作成していました。
しかし、CD-ROMの中身を確認したところ、どんなOS(基本ソフト)やアプリケーション(応用ソフト)を使っても作動せず、意味不明のデジタル情報が書き込まれていました。
不正の金額
粉飾決算が発覚したのち、売上高と各種利益の金額を大きく修正しています。
循環取引により粉飾された総額は約400億円にものぼります。
粉飾前後の数値の比較
修正前後の金額を勘定科目ごとに見ていきましょう。
まずは、損益計算書の科目です。
実在する企業に対して、商品を販売しているため、収益、費用、利益の科目は増加して積みあがっていきます。
売上高に関しては391億円の金額が水増しされていることがわかります。
次は貸借対照表の科目です。
取引自体は正しく行われているため、売上債権に関する科目も増加していることがわかります。
また、関連企業間で商品の仕入と販売を繰り返しているため、仕入債務と棚卸資産の金額も増加していきます。
このように、循環取引を行った場合、収益、費用、利益、資産、負債の関連科目が大きく膨れ上がってしまいます。
新卒くん
なるほど。
営業取引に関する勘定科目が極端に膨れあがるのですね。
学生くん
循環取引に気づくには、どのような視点で決算数値を見るべきなのでしょうか?
決算書を見る際のポイントは?
ここからは、循環取引が行われた場合に生じる決算数値の特徴と、その際に決算数値を見る視点を詳しく解説します。
回転期間が壊れにくい循環取引
循環取引の決算数値の特徴として「回転期間が壊れにくい」ことが挙げられます。
循環取引は、架空取引とは異なり、取引自体は正常に行われるケースが多いためです。
このため、回転期間分析では違和感を見つけることが難しいという特徴があります。
これは、循環取引の理解と検出において重要な視点となります。
学生くん
回転期間分析で違和感を見つけられないとなると、財務分析トレーニング①の手法は使えませんね。
※財務分析トレーニング①では「架空取引」を扱いました。
架空取引の場合、回転期間が壊れてしまうため、回転期間分析が有効でした。
まだ読んでいない方は、併せて下記のトレーニング①にも挑戦してみてください。
関連記事
財務分析トレーニング①倒産する企業を決算数値から当てよう!
boki.funda.jp/blog/article/financial-training-1
boki.funda.jp/blog
現金と利益の動きの不整合
ここからは、循環取引により生じる違和感を発見する分析手法を紹介します。
粉飾決算を行うと、損益計算書の利益の金額と、キャッシュ・フロー計算書の現金の金額の動きに不整合が起こる傾向があります。
利益の金額は、会計処理や取引のタイミング、評価基準などによって金額が変動します。これらの要素を操作することで利益を粉飾することが可能となります。
しかし、現金は銀行口座や金庫に具体的に存在する資産であり、その額を偽装することは難しいです。
そのため、利益と現金の動きの整合性を確認することは重要となります。
従って、売上高や総資産の動きのみならず、現金の動きとの整合性を確認することはとても重要です。
時系列分析の重要性
また、異なる期間の決算数値を比較する時系列分析も非常に有効です。
時系列分析とは、企業の財務データを時間の経過とともに追跡し、そのパターンを分析することです。
これにより、企業の業績が一貫しているか、または不自然な変動があるかを確認することができます。
例えば、2年間の数値を比較しても、特定の勘定科目の金額が異常に膨れ上がっているということがわかります。
また、複数の指標を組み合わせて実施する時系列分析も有効です。
例えば、売上高と従業員数という指標を5年分並べてみると、従業員の増加に比べて異常なほど売上高が膨らんでいることがわかります。
これの指標を元に「1人あたり売上高」の金額を計算します。
5年前は1人あたり売上高が約4,900万円ですが、直近決算では1人あたり売上高が約3億円となっています。
可能性はゼロではありませんが、ビジネスモデルの変更無しに、急激に1人あたり売上高が上昇することに違和感を感じる方も少なくないかと思われます。
決算書の読み方の鍛え方は?
以上、循環取引を行った企業の決算数値の紹介でした。
企業の決算書を読む際の着眼点の1つとして押さえておきましょう。
最後に財務分析力の鍛え方についてを紹介します。
基礎知識を身に付けよう
決算書の勘定科目が何を意味しているのかを知ることが大切です。
今回のケースでは、「売掛金」「棚卸資産」「買掛金」という科目の意味がわからなければ、違和感に気づくことができません。
従って、まずは簿記3級レベルの基礎知識を身に付けることが大切です。
数字に触れよう
決算数値がどのように出来上がるのかを学ぶことで、どのような取引が行われているかを知ることが可能となります。
今回のケースでは、商品を販売して終わりではなく、現金の回収取引まで見えていなければ、違和感に気づくことができません。
このように、ビジネスの流れと、数字の動きを体で覚えることは分析力の向上に繋がります。
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